HR2009-08 正しく取り付けられませんでした 自動車用チャイルドシート

HR2009-08

正しく取り付けられませんでした
自動車用チャイルドシート

2009.08.31 笠原

調査のきっかけ

調査の様子

私には2歳の娘がいます。

生後まもなく母親と共に退院するときからベビーシートを使って自動車に乗せています。そして、1歳半ばころには、最初に買ったベビーシートが窮屈になったので、新たにチャイルドシートを購入しました。娘も新しいチャイルドシートを気に入って、いつも快適に自動車に乗っています。

さて、警察庁とJAF(社団法人日本自動車連盟)が毎年共同で実施している「チャイルドシート使用状況全国調査」という調査があります。今年度も調査の結果が公開されました。 http://www.jaf.or.jp/safety/data/childkek.htm

調査結果によると、チャイルドシート使用義務のある6歳未満の子供での使用率は54.8%でした。5歳くらいになると一気に使用率が下がっているせいもあり、全体の使用率が低いです。そして、何より驚いたのがチャイルドシートを使用していたケースの63.4%が正しく取り付けられていなかったという結果です。誤った取り付けのうち最も多いのは「腰ベルトの締め付け不足」であったと解説されています。

この調査結果を見た当初は「いくらなんでも誤った取り付けが多すぎるのでは?」と思いましたが、かくいう私も購入直後には取り付け方を誤っていた時期がありました。なので、あながち大げさな数字とは言えないのかもしれません。

それならば、実際にチャイルドシートを取り付けるときに、ユーザーはどんなところでつまずき、そして、どうして正しく取り付けられないのかを確認してみようと思い立ち、ユーザビリティテストを行いました。

ユーザビリティテストの実施

(1)テストに使用したチャイルドシート

ユーザビリティテストの評価対象は、私が娘のために昨年購入したチャイルドシートを使用しました。使用したチャイルドシートは以下のような製品です。

テストに使用したチャイルドシート

国土交通省が毎年行っているチャイルドシートアセスメントという評価があります。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/02assessment/child_h20/index.html

今回使用したチャイルドシートは19年度アセスメントの使用性評価において、「取扱説明書等」、「取付性」の評価項目がいずれも5点満点で4点以上と、比較的評価の高い製品です。

(2)被験者のプロフィール

ユーザビリティテストの被験者として、当社のスタッフ3人に協力してもらいました。 3人のプロフィールは以下の通りです。

名前 Aさん Bさん Cさん
性別 男性 男性 女性
年齢 41歳 39歳 35歳
免許暦 20年 12年 15年
現在所有している車 なし 日産プリメーラ レクサスIS

※Aさん:5年前まで所有(昭和年式の自動車)。最近レンタカーの使用経験あり

3人とも子供はおらず、チャイルドシートを使用したことはありません。これまでに見聞きしたイメージを元にタスクを行ってもらいました。

(3)テスト環境とタスク

以下の内容でテスト環境についての教示とタスクの指示を行いました。

A)あなたが乗っている車について

B)あなたの子供について

C)あなたが購入したチャイルドシートについて

D)タスク指示

あなたには、ちょうど2歳になる子供がいます。
あなたは子供を自分の車に乗せるためにチャイルドシートを購入しました。
今、購入したチャイルドシートを箱から取り出したところで、これから自分の車に購入したチャイルドシートを取り付けます。

チャイルドシートを車に取り付けてください。
車への取り付けが終わったら、子供をチャイルドシートに乗せて出発できる状態にしてください。(あなたは運転席に着く必要はありません)

テストでは、実際にチャイルドシートを購入して最初に取り付ける状況を想定して、評価対象のチャイルドシートは取扱説明書も含めて購入した状態で被験者に渡しました。全員が取扱説明書を見ながらタスクを行いました。

正しく取り付けられた?  (テスト結果)

まずは、最終的に自力で正しく取り付けられたかどうか。

AさんとCさんは明らかに問題のある取り付け方をしてしまいました。

Bさんは、使用上問題の無いレベルでの取り付けができました。しかし、タスク後のインタビューで機能/仕様を正しく理解していなかったことが判明しました。

どんなところでつまずいた?  (テスト結果)

取り付けの過程でどんな問題が起こったのか、主な問題をご紹介します。(文中の写真はいずれも再現写真です)

(1)肩ベルトの高さ調整をしないで使用してしまう(Aさん)

【正しい手順】

チャイルドシートを自動車のシートに取り付ける前に、子供をチャイルドシートに座らせて、肩ベルトの高さを子供の肩の高さに合わせて調整します。初期状態では2歳の子供の肩の高さよりも低い肩ベルト通し穴に肩ベルトが通っています。

調整前の初期状態 調整後
調整前の初期状態 調整後

【解説】

Aさんは、取扱説明書でこの手順の説明を読みましたが、この手順の必要性が理解できず、手順そのものを飛ばしてしまい、結局、肩ベルトの高さが合っていない(肩よりも低い)状態で子供を乗せました。この状態では、肩ベルトを締め付けても、肩のパッドが身体に密着せず、適切な締め付けができなかったり、子供の身体に無理な力がかかった状態になったりします。

(2)チャイルドシートを自動車シートにしっかりと固定できない(Cさん)

【正しい手順】

チャイルドシートの座面に膝を立てて体重をかけ、自動車シートが沈み込んだ状態でシートベルトのたるみをとり、シートベルトをロックします。

体重をかけて調整中 調整中の手元
体重をかけて調整中 調整中の手元

【解説】

Cさんは、取扱説明書どおりの手順で、体重をかけてベルトのたるみを取るところまではできたが、体重をかけたままの状態でベルトロックをかけることができず、体重を抜いてからベルトロックをかけたためたるみがもどってしまいました。ある程度は固定できましたが、ちょっと強めに揺らすと大きく揺れる状態でした。これでは、事故が起こったときにチャイルドシートが大きく移動し、子供が怪我をする恐れがあります。

(3)車のシートベルトの種類が判別できない(全員)

【正しい手順】

手順の始めの方で、自動車のシートベルトの機能上の種類を取扱説明書で判定する手順があります。説明を読みながらシートベルトを実際に操作してみて、シートベルトの種類を判定し、その種類に合った取り付け方を知ります。

【解説】

自動車のシートベルトには自動巻取り装置の有無、緊急時のロック機構の有無など、いくつかの種類があります。(評価対象製品の取扱説明書にも下記の表と類似の表があります。)

名称 特徴
ELR

ゆっくり引くと自由に出入りし、勢いよく引くとロックする。

AELR

ゆっくり引くと自由に出入りし、勢いよく引くとロックする。
ベルトを全て引き出した後で巻き戻すと自動的に巻き取られるが、巻き取りの途中で引いても引き出すことができない。(ベルトを全て巻き戻すと自由に出入りするようになる)

NR

巻き取り装置の付いていないシートベルト。

NLR

緊急時ロック機能のない巻き取り装置付きシートベルト。

ALR

ベルトを引き出す途中で止めるとロックされ、それ以上引き出せなくなる。

ここでポイントとなるのはELRとAELRです。

ELR(緊急ロック式)は現在ではほとんどの自動車に装備されている一般的なシートベルトです。一方AELRは「チャイルドシート固定機能つきシートベルト」とも言われ、ELRの機能に加えてチャイルドシート固定するときに取り付けがしやすいような機能が付いています。テストに使用した車両の後席のシートベルトはAELRでした。

Aさんはシートベルトの種類についての説明をしっかりと読んで、実際にシートベルトを操作してみた上で、テスト車両のシートベルトはELRであると誤解してしまいました。また他の2人はシートベルトの種類の判定手順そのものを読まないで作業を行いました。

実はAELRとELRの違いはチャイルドシートの取り付け方法への影響はあまり無いため、シートベルトの種類判定を誤ったり、行わなかった場合でも、結果的にはチャイルドシートは正しく取り付けられるため、安全上大きな問題にはなりませんが、自動車のシートベルトに備わった機能が有効に生かされず、その機能のメリット(チャイルドシートの取り付けがしやすくなる)を享受することができません。

ちなみに、今回は、テスト時にはテスト車両の取扱説明書は見せなかったのですが、取扱説明書のシートベルトの説明にはAELRという用語は使われていませんでした。

(4)肩ベルトがねじれた状態で組み立ててしまう(全員)

【正しい手順】

肩ベルトの高さ調整を行うときには、肩ベルトを一旦引き抜き、適切な肩ベルト通し穴に通します。このとき、左右の肩ベルトを締結するための差込金具の向きを確認し、肩ベルトを締結したときに肩ベルトがねじれない向きで肩ベルトをチャイルドシートの通し穴に通します。

肩ベルト通し穴の様子 ねじれた状態 正しい状態
肩ベルト通し穴の様子 ねじれた状態 正しい状態

【解説】

3人とも、肩ベルト及び差込金具の向きを確認しないまま肩ベルトを通し穴に通してしまいました。一通りの作業を終えて、いざ子供を乗せようとしたときに、この誤りに気付き、肩ベルトの取り付けをやり直す羽目になりました。

子供を乗せるときに、おかしいことはすぐに分かるので、間違ったまま使用することは無いとは思いますが、チャイルドシートを自動車に固定して、子供を乗せるときになって気付くと、シートの取り付けからやり直さなければならず、大変な手間となります。

(5)今行っている作業の目的が理解できない(Bさん、Cさん)

【正しい手順】

チャイルドモード(18kg程度まで、チャイルドシートを自動車のシートに固定する使用方法)で使用する場合、取扱説明書では次の手順で作業が説明されます。

    1. 自動車の座席の準備
    2. チャイルドシートの角度調整のしかた
    3. ヘッドパッドの使い方
    4. 肩ベルト通し穴の位置の決め方
    5. 子供の座らせ方
    6. チャイルドシートの自動車への取り付け方
    7. 取り付け完了チェックのしかた

【解説】

それぞれの作業についての説明は比較的分かりやすく書かれていますが、それぞれの作業を何の目的で行っているのかが明記されていないので、作業のゴールを描くことができず、不安な気持ちになるようです。

特に「4.肩ベルト通し穴の位置の決め方」は、作業の目的を想像しにくい上に、作業が複雑なため、不安な気持ちがより強くなるのでしょう。

調査の感想

改めてチャイルドシートの取り付け方法を確認してみて、安全に関わる装備だけあって、注意すべき点がたくさんあることに驚きました。そして、そのどれもが重要にも関わらず、今回の製品の取扱説明書ではその重要さがあまり伝わってきませんでした。現状ではユーザーの知識や理解力に頼っている感もあります。

また、チャイルドシート本体も、構造が分かりにくかったり、操作に非常に手間暇がかかる部分があったりと、まだまだ改善の余地があるように感じました。

日常的に使用している中で、自動車間でのチャイルドシートの乗せ替えをしない場合は、最初に取り付けたら、そのまま使い続けることになります。つまり、最初に誤った取り付け方をしてしまうと、それを訂正する機会はとても少なく、誤った危険な状態で使い続けるということです。このような事態を避けるためには、取り付けのしやすさ、取扱説明書の分かりやすさといったユーザビリティが、安全に直接結びつく重要なファクターとなってきます。

チャイルドシートを選ぶときには、安全性評価の高い製品を選ぶことはもちろん重要ですが、同時に、取り付けが分かりやすそうかということも、安全のためにも意識したほうが良さそうです。そして、現在チャイルドシートをお使いの方、今一度取り付け状態を確認してみてください。


2009.08.31作成 2011.09.07フォーマット修正